人生の節目に 2005年11月13日

警備員のSさんが、朝礼の後「館長」と声を落として耳を寄せてきた。
館の西側にある駐車場に、不審な車が駐車しているというのである。
不審の根拠は、「二週間になるんですよ。いや、停めっぱなしではないんですがね」。Sさんの口調を借ればこうなる。
時々はいなくなるが、夜になると駐車場に帰ってくる。
そう言えば私の出勤時間帯に、初老の男が海に向かったベンチに座り、じっと海を見ていることがあった。時にタオルを振るったり、軽い体操したり。
Sさんの話しと合わせると、男がここを生活の拠点にしているのは疑うべくもない。
「ハンチングを目深にかぶって、やせぎす、目つきも鋭い。何者でしょうな」
事件がらみを予測する、Sさんの表情である。
Sさんの推理が当たっている可能性も否定出来ぬ。
そこである朝、車から出て来た男に「おはようございます」とあいさつしてみた。
すると、予期せぬアクションが返って来た。男はまずハンチングをとった。それから直立不動の姿勢になり、改めて腰を90度折って「おはようございます」。
頭のてっぺんがちょっと薄くなっているのが分るくらい、これ以上はないという丁寧な挨拶であった。
しかし、口数は少ない。聞かれても話せない。いや.話さない。そんな決意のにじんだ、それでいて穏やかそうな表情に、いわくあり、を確信した。それで聞きそびれた。
館には、県外からのリピーターが少なくない。桂浜へ龍馬に会いに来る。進学、就職、結婚、リストラなどというのもある。動機はさまざま。共通して言えるのは、皆さん人生の節目である。
くだんの駐車場の男も、二週間ほどの間に二回、入館したと言った。
まさに人生の節目。年恰好からして、大きな節目と思う。
“公園内の駐車場に停めた高級国産車で寝泊りしながら、海を眺めている中年男”。おかしくはある。しかしここは、龍馬のお膝元ではないか。
Sさんと話して、いましばらく様子を見ることにした。