北の大地・坂本直行(1) 2006年3月24日

急な出張だった。1泊2日。正味1日の札幌行き。短い時間で、大切な資料を的確にお借りするという目的が無事に果たせるのか。館長との打ち合わせにも、厳しさを感じていた。今の北海道は、サクラの開花宣言があった高知とは気候も違う。雨だろうか。雪だろうか。いつもよりも気持ちが引き締まっていた。
当日。雲の合間から覗く東北地方の雪景色を越えたら、海峡が見えた。早朝出発のふやけた感覚からいっぺんに目が覚めた。久しぶりの千歳周辺。機体が降下し始めると、目に入る白樺の木肌が温かく感じられた。北の大地にも、春が近づいている。
ここは、海から降りるといきなり山に突き当たりそうになる高知龍馬空港とは違う。北海道はどこに降りても、大地に帰ったという感覚がはっきりとある。アメリカやヨーロッパの空港に降り立つような、広々とした豊かさを感じる。機体が着陸するまでのときめきは旅人に近いものがある。
しかし、この大地を開拓し開発して行ったのは、旅人ではない。旅人のロマンなど一蹴する厳しい大地と向き合ったのは、文明の利器など持たない先住民や移民たちだったのだ。
龍馬はこの大地にどれだけあこがれていたことだろう。直寛は何を思い、女こどもの不安と期待はどんなだっただろう。熊本から来た弥太郎。信仰を持った人々と、信仰すら捨てて大地に立ち向かった直行。その家族。時代を遡る感慨が押し寄せてくる。
かつて見たニューヨーク・エリス島のイミグレーション記念館。説明もない日本人のポートレートとパスポートが語ることの多さ。カナダ最東端、プリンスエドワード島は赤毛のアンの島であり、カナダで最初の州であった。先住民と侵略者の闘いと融合。トロントで見た日系5世展。大陸内奥部ウィニペグまで進んだ日本人たちの思い。かつて旅先で見た、未知の土地での過去の人々を思う。
目の前に広がる北の大地。こもごもの思いに再会しながら、これは直行さんや龍馬に出会う旅だと感じていた。