桜花花 2006年3月29日

朝、辺りはしんとしている。日曜日など、一帯が眠りの底にあるようなのどかさである。
時間にせかされて、門から一歩外に出る。道路にせり出した桜の枝が、ちょうど目の高さだ。七分咲きの桜花が気配で揺れる。ついでにふっと息を吹きかけてみる。びくともしない。新入生の制服に付いた桜のボタンみたいにりんとしている。まだまだ散るには時間があるぞ!そう意思表示している。
中水道から桂浜行きのバスが出る堺町まで、約20分ほど歩く。気がつくとあちこちに桜である。地域によって開花に多少の差はあるが一斉に動き始めた自然の息遣いを感じて、足はひとりでに軽くなっていく。
バスからの桜探しもいい。いや、探さなくても目線の中に飛び込んでくる。民家の庭、ちょっとした路地にも、鏡川の堤防沿いは満開が待ち遠しい。宇津野トンネルを抜けて浦戸湾沿いは、急に華やかに感じる。桜って多いなあが実感である。
長浜、南海中学校前を通って、花街道へ。水平線に突き当たる。
バスは、坂本龍馬記念館を進行方向左手に見ながら、急坂を登る。眼下に波が寄せる浜が開ける。坂本龍馬記念館前で下車する。ここから館まで歩いて2分。この2分がもったいないほどに貴重になる。一日分の心のゆとりを授けられた気になるのだ。
見上げれば桜花花。古木は背が高い。陽光をいったん吸い込んで、で、花びらを裏返して光を地上に振りまくが如しである。桜花花のトンネル。深呼吸しながら、坂道を登り切ると、海と空の境界線。バッチ漁の漁船が今日は岸に近い。船体が白く光っている。
館の“龍馬の見た海”を臨む「空白のステージ」に立つ。
船中八策の広場に桜あり。白波を隔てて青い海。抜けるような空。浮かぶ雲。そして、風少し。波打ち際をゆっくり散歩する人影が揺れて見えた。