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特別展「薩摩と土佐-雄藩がたどった近代化の道-」展

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特別展「薩摩と土佐-雄藩がたどった近代化の道-」展

幕末維新期に重要な政治的リーダーであった薩摩と土佐は、ともに「雄藩」と呼ばれ、人的交流も多い。本展では、帰国時に薩摩藩の取調を受け、同藩の開成所教授に招かれたジョン万次郎(中濱万次郎)、吉田東洋暗殺後、薩摩藩士として英国に留学した高見弥市(大石団蔵)、薩摩藩の庇護を受け、薩長同盟の仲立ちをした坂本龍馬の3人の土佐人を軸に、両藩が明治維新において果たした役割を再考したい。〈国指定重要文化財を展示予定〉

主な展示資料
  1. 智鏡院所用「丸十字唐草文入燗器」(高知県立高知城歴史博物館所蔵)

    写真だと大きく見えるかもしれませんが、実はとても小さく、可愛いらしい酒器です。お酒を温める道具です。日本の伝統的な文様のひとつ「唐草文」が散りばめられ中に、〇に十の印がいくつも配置されています。この〇に十は薩摩藩主である島津家の家紋です。この可愛らしい酒器を持っていたといわれる智鏡院とは、天保2(1832)年、土佐藩主山内豊資(とよすけ)の子・豊熈(とよてる)に嫁いだ、島津斉興の娘・候姫です。この婚礼で、両家は縁戚関係となり、両家の距離も縮まったことでしょう。

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  2. 中濱万次郎申口(部分)〈「斉彬公史料 嘉永五年」のうち巻二〉(東京大学史料編纂所所蔵)

    ジョン万次郎(中濱万次郎)は、漁に出て嵐にあい、漂流の末アメリカに渡り、西洋文化や英語を学び、自力で帰国した人物です。帰国したとき、最初に上陸したのが琉球だったので、当時琉球を支配していた薩摩に送られ、取り調べを受けました。取り調べをまとめたものとしては、土佐の河田小龍による「漂巽紀略」が有名ですが、「中濱万次郎申口」も、漂流の経緯からハワイ、アメリカの様子、帰国時の様子などをまとめたものです。船大工らが万次郎に聞いた話から捕鯨船の模型を作り、ここから「越通船」という小型帆船を作ったということが記されています。(前期のみ展示)

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  3. 「漂巽紀略」大津本(当館寄託)

    ジョン万次郎は、琉球に上陸した後は薩摩に送られ、その後、長崎でも取り調べを受けた後、土佐藩に向かいました。土佐で、絵師・河田小龍が彼から聞き取った話をまとめたものが「漂巽紀略」です。いくつか写本が伝わっているうち、これは「大津本」とよばれ、高知に伝わる写本のひとつ。ジョン万次郎の肖像画で「幡多郡 仲濱浦 萬次郎 二十九歳」とあります。どっしりした鼻、分厚い唇が印象に残りますね。他のページには、一緒に帰国した仲間や錨など船の道具も絵で紹介されています。(この資料はジョン万次郎展示室に展示しています。)

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  4. 高見弥市肖像画(高見長臣氏所蔵)

    写真のように見えますが、写真を基に描いた絵画です。この人物は、薩摩藩士としてイギリスに留学した高見弥市こと土佐の郷士・大石団蔵です。大石家は香美郡野市村(現・香南市)の郷士です。ちなみに、勤王党盟約文を起草した大石圓(まどか)は弥市の従兄弟にあたります。大石団蔵は、吉田東洋を暗殺した後、土佐を出奔。京都の薩摩藩邸にかくまわれ、やがて薩摩藩に召し抱えられることとなります。そして、人柄が確かで志も堅い人物と評価され、薩摩藩の留学生のひとりとして、英国に向かったのです。この肖像画には「慶応二年六月三日 英国ロンドンニ於テ撮影 高見弥市 三十四歳ノ時」とあります。下部中央にH.YUASAとうっすらと署名が見えますが詳細はわかりません。

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  5. 井上弥八郎・村山斎助書簡(鹿児島県立歴史・美術センター黎明館所蔵 玉里島津家資料)

    「土州 髙見弥市 外弐人」とあり、彼らを「当屋敷(京都の薩摩藩邸)」にかくまっている...と手紙冒頭から少々不穏なことが書かれています。吉田東洋暗殺後、土佐を出奔した髙見を含めた3人の土佐浪士の処遇について相談する手紙です。詳細は分かりませんが、3人のうち髙見だけを薩摩藩に召し抱えることになったことと関係があるのもしれません。(文久3年推定6月25日 中山中左衛門・大久保利通宛)

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  6. 慶応元年5月16日桂右衛門・蓑田伝兵衛宛書簡(鹿児島県立歴史・美術センター黎明館所蔵 玉里島津家資料)

    イギリスに渡った薩摩藩士のひとり五代友厚(変名・関研蔵)の手紙は、西洋式の封筒に入っています。日本にいる頃、髙見らは外国を排斥すべし、という攘夷論者でしたが、実際に海外事情を知り、攘夷は不可能だと悟ったようです。日本に戻ったら、自分たちのように暴論を言う輩を「びしとやり付」たいと言っています。現代にも通じるような話ですね。

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  7. 渋谷彦助宛龍馬書簡(鹿児島県立歴史・美術センター黎明館所蔵 玉里島津家資料)

    大宰府にいる薩摩藩士・渋谷彦助に、土方楠左衛門(久元)による「将軍進発」の情報を伝える龍馬の手紙です。徳川家茂がかねてからの噂通り、江戸を出発し、東海道を軍勢を整えながら進んでいるという内容です。真ん中あたりにには「西吉兄」(西郷隆盛)「小大夫」(小松帯刀)らの名前も見えます。表装されていないので、龍馬が折ったときの折り目のまま、というのも注目したいところ。なお、この手紙は、他の出品資料「西郷隆盛宛渋谷彦介・蓑田新平書簡」の「別紙」として西郷に渡されたものです。あわせてご覧ください。(慶応元年閏5月5日)

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  8. 「非義の勅命は勅命にあらず」西郷隆盛宛大久保利通書簡(国立歴史民俗博物館所蔵 旧侯爵大久保家資料)

    慶応元年5月、京に上った将軍家茂は朝廷に長州再征の勅許を求めました。勅命が下りたことを知った薩摩の大久保利通は、「道理に合わない勅命は勅命でないから従う必要はない(非義の勅命は勅命にあらず)」と言い切った手紙を西郷に出しました。歴史上非常に重要な意味を持つ手紙です。手紙を受け取った西郷は9月26日に船で薩摩に向かいますが、同じ船に龍馬も乗っていました。龍馬はこの大久保の手紙の内容を長州や土佐の同志らに伝えています。龍馬は、薩摩が長征に反対しているという事実を伝える証人としての役割を果たしたのです。

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  9. 薩土盟約書(鹿児島県歴史・美術センター黎明館所蔵 玉里島津家資料)

    慶応2年の薩長同盟、幕長戦争での長州の勝利、将軍の交代などを経て、慶応3年の政局は次の局面を迎えていた。土佐、宇和島、薩摩、越前の四藩主が将軍と会談する「四侯会議」が5月に行われましたが、将軍慶喜に有利な結果で終わり、薩摩は武力を背景に幕府に迫る具体的な策を考え始めました。6月、将軍辞職、王政復古を主旨とする策を持つ後藤象二郎が龍馬とともに上京、在京の土佐藩士、そして薩摩藩もこの案に同意し、「薩土盟約」の合意が成立しました。その骨子は後の大政奉還建白に受け継がれています。

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  10. 薩土盟約書(国指定重要文化財・国立歴史民俗博物館所蔵 大久保家資料)

    薩摩藩と土佐藩の間で交わされた「薩土盟約書」の資料は今回の特別展で3点出品されています。国の重要文化財に指定されている本資料は、前回ご紹介した鹿児島県歴史・美術センター黎明館所蔵の「薩土盟約書」の下書きと思われるもので、よく見ると、字句の修正や挿入の跡があるのが見られます。

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  11. 錦絵「鹿児嶋新聞 熊本城戦争図」(高知県立高知城歴史博物館所蔵)

    慶応3年12月9日に王政復古が宣言され、幕府の廃絶と新たな国づくりが始まりました。次々と新たな施策が進むなか、明治6年10月、征韓論をめぐる政府内の対立に敗れた西郷や後藤象二郎、板垣退助らは政府を去りました。以後、言論で政府に対抗する板垣と武力で対抗する西郷、と立場の違いが鮮明になっていきます。やがて、西郷らは熊本をはじめ、九州各地で政府軍と戦います(西南戦争)。この錦絵は、熊本城での戦いを描いたもの。

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  12. 砲弾(熊本博物館所蔵)

    この砲弾は、西南戦争で実際に使用されたと伝わるものです。 武装した西郷軍は「政府に尋問の筋有之(政府に問いたいことがある)」と、九州各地を転戦します。当時、熊本には陸軍の鎮台(司令部)が置かれ、兵が駐屯していました。西南戦争時、熊本鎮台は熊本城での籠城戦を選びます。2月21日、熊本城下に入った西郷軍は、その翌日から熊本城への攻撃を開始、激戦が始まりました。

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  13. 谷干城書(熊本博物館所蔵)

    西郷軍が熊本に攻めてきた時の熊本鎮台司令長官は旧土佐藩士の谷干城陸軍少将でした。熊本城での籠城戦は約2か月に及び、城とその周辺では激しい戦いが繰り返されました。4月12日、政府軍の山川浩中佐の率いる隊により、籠城から解放されました。 この漢詩は熊本での籠城を詠んだものです。砲、賊軍、煙...戦いを想像させるような漢字が並んでいます。

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【関連イベント】
◇講演会「幕末の薩摩」講師:松尾千歳氏(尚古集成館館長)

日 時:2020年11月14日(土)13:30~
会 場:高知県立坂本龍馬記念館・新館1Fホール
定 員:50人(無料、要申込、先着順)
※電話・FAX・HPにてお申込みください

◇担当学芸員によるギャラリートーク(展示解説)

2020年10月17日(土)、12月5日(土)各14:00~
申込不要、直接企画展示室にお越しください。

薩摩と土佐チラシ.pdf