記念館雑記帳
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「錦絵にみる幕末維新-絵師と庶民の徳川幕府-」展にむけて

「錦絵にみる幕末維新-絵師と庶民の徳川幕府-」展にむけて

 錦絵と聞いて、みなさんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか。錦という文字通り、美しいもの、色鮮やかなものなどを想像する一方で、浮世絵との違いはどこにあるのかと不思議に思った方も、もしかするといらっしゃるかもしれません。当館で錦絵を中心とした展示を行うのはおよそ十年ぶり。本展では錦絵の多様な魅力を最大限に生かし、雅でかつ奥深い錦絵の世界を展開します。

 錦絵は江戸時代に大衆文化として流行した浮世絵から派生したものであり、浮世絵版画の歴史は墨一色の墨摺りから始まりました。ここから、丹(たん)絵(え)紅(べに)絵(え)漆(うるし)絵(え)と移り変わっていく中で、江戸時代中期の明和二(一七六五)年に大小暦という絵を伴う略暦の交換会が流行します。この際に、美麗さや意匠の工夫が競い合われ、多色摺りの木版画として錦絵が生み出されました。

▼当世長っ尻な客しん(個人蔵)

当世長っ尻な客しん1.JPG

 さて、錦絵の種類は多様であり、女性を描く「美人画」や、歌舞伎の役者や有名人を描く「役者絵」などがあります。また、「絵双六」と呼ばれるすごろくも存在し、いわゆる娯楽品や土産品として庶民から武家に至るまで幅広い層に親しまれました。その一方で、江戸時代後期になると、ユーモアや駄洒落を描いた「戯画」や巧みな技法を用いて世情を風刺する「見立て絵」(諷刺錦絵)と呼ばれるものが流行するようになります。これは、歌川国芳以降格段に広まり、特に戊辰戦争期には数多くの作品が生み出されました。

 戯画や風刺的要素の強い錦絵一つ一つには実に巧みな工夫が凝らされており、絵師からの暗号を読み解くことで初めてそこに描かれているものを理解することができます。諷刺錦絵はいわば絵師からの挑戦状であり、人々は持っている知識を活かして解読に努めます。一見すると、子供が仲良く遊んでいる様子や店で宴会が開かれている様子、或いは野菜と魚が槍などを持ち二手に分かれて戦っている様子にしかとらえられないものも、すべて歴史上のとある出来事を詳細に描いたものだったのです。こうした錦絵の中には、制作者や受け取り側の想いが強く反映されたものもあり、一つの作品から様々なことを読み取ることが出来ます。

▼青物魚群勢大合戦之図(当館蔵)

青物魚軍勢大合戦之図1.JPG

 本展ではこのような色彩、内容ともに彩色に富んだ錦絵について、情報と風刺をテーマに幕末維新期のものを取り上げ、絵師と庶民の視点から幕末維新期を四章立てで紹介します。幕末期にはどのようなメディアが存在したのか、時代の変わり目に直面した絵師と庶民は戊辰戦争や幕末期自体をどのように捉えていたのかなど、展示を通して是非考えていただければと思います。

 また、2月10日(土)、3月9日(土)、3月16日(土)は担当学芸員による展示解説も実施します。(いずれの日程も11時~30分程度)

解説を聞いていただくとより理解も深まりますので、是非ご参加お待ちしております。